扉を開けると本の向こう側の世界が広がっていた。

猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。

猫町UG(アンダーグラウンド)

  • 2015年02月11日 
  • 智のいいなりになる悦び 猫町UG読書会 [前編]

極めて日常的で個人的な営み、読書。

ワタクシにとっては基本、作品との対話。
感想を言うにしても友達とあーだのこーだが関の山。

「100人前後の参加者が
ココロの奥のひだひだやもやもやを
あけっぴろげに仮面で語り合う読書会」

そんな非日常的なイベントが
新宿ロフトプラスワンで開催と聞きつけ
単純になんだか好奇心が。

だったら、行ってみましょうよ。

それが猫町UG読書会



猫の町は何処にある

書痴やらビブロフィリアやらのコトバもあるように
古来書籍にはフェティッシュな愛情を注ぐ人は多いわけです。

”ココロの中で膨らませる”のは
読書もフェティシズムも共通しますし
親和性が高いのも頷けるお話。

そもそもどんな集まりなのか
世間知らずなワタクシ

2006年に名古屋でスタートして以来
段々と参加者を増やして、mixiのコミュを伸ばして
ついにはのべ8300人の参加者を数えるまでになった
国内でも屈指の規模を誇る読書会なのだとか。

とはいえ、参加するには難しいかと言うと
・課題図書を読むことが大前提
・UGには仮面着用のドレスコードが付加
という全然お手軽お気楽な条件なんです。

UG読書会のほうは課題図書も蠱惑的。

第1回「悪徳の栄え」サド
第2回「O嬢の物語」ポーリーヌ・レアージュ
第3回「ロベルトは今夜」山口椿、ピエール・クロソウスキー

そして今回、第4回目の課題図書は谷崎潤一郎
フェティシズム小説集 」と「マゾヒズム小説集
なおなおむくむく興味が湧いてまいります。

なんてなうちにJR新宿駅東口に降り立った次第。

さて猫の町の裏路地
ようよう抜けた先には
蛇這う薮か、花香る園か。



表紙をめくるように

会場に訪れる方々は
年代も性別もさまざまに
仮面と装いもそれぞれに
定刻にはしっかりと席も埋まって。

司会進行役、猫町UG隊長のチアキさん
開会の挨拶とともに滑り出します。

こっから一体どんな展開になるんだろうという初参加ゆえの興味と不安。
テーブルに座っている初参加の方々もきっと同じような気持ちでしょう。

「どんな場面でも頭でっかちな人が博識を振りかざしては興醒め。
100人もいたら、そんな人も集まるかな、どーなるんだろう。
けっこう、論に偏ったりして、シラケたりもヤだなぁ。」

と思っていると冒頭、この読書会の諸ルール説明の中で
「同じテーブルに着いた者同士、出された意見を否定しない」と
くっきり一本の釘が打ち込まれました。

他者否定の禁止、いわゆるブレインストーミングの基本ルールですが
コレを聞いて「あ、これで面白くなる」とグッと自己内ワクワク増加。
高尚なご高説は結構ですが、人の話を聞けない人との席は窮屈ですもん。
心配事も段取り万全、諸事抜かりなく。

ここで当代きっての踊り子若林美保さん
の名前がアナウンスされて会場は暗転。



5分間の踊りは全身をゼンタイに包んだ女性の
全身のシルエットの美しさに目が向かいます。
ただしここはあくまで食前酒、静かな小品といった風情。



その意味する所を考えてみると
”非開示の開示”とでも言うんでしょうか。
『わたしはまだあなたに何も許していないし
だから何も見せないということをお見せします』
そんな自己紹介の印象。



「ちょうどこの場にいる個々の参加者の気持ちを代弁するみたいだ」
と暗がりの中でぼんやりと思いつつ会はスタートするのでした。



Blow Blow Blow


ワタクシは各テーブルを移動しつつ繰り広げられる展開を拝聴。


各テーブル、うまいこと進んでいくなぁと感心していると
それもそのはず、様々な業界の興味深い面々が参加との由。

鈴木淳史(クラシック評論家)
大泉りか(官能小説家)
水嶋かおりん(メイクラブアドバイザー)
小沢カオル(漫画家)
中宮崇(ライター)
杏美月(AV女優)
斎藤亮一(プランナー)
順不同敬称略
側面から運営を支える隊員の皆さんも適材適所。

お邪魔した途端にスッとワタクシに話を振って
すっと取り込んでくださる和装のご婦人が、小沢カオルさんだったり。

序盤からかなり濃いめの領域に乗り入れていたのは
中宮崇さん・大泉りかさんのテーブルだったり。



また、杏美月さんのテーブルでは『刺青』興に乗せられて
横から和彫りの刺青話を出したワタクシを皆さん快く受け入れてくださったり。



各テーブル驚くほど様々。
共通する感想があれば、独走する慧眼もあり
重厚な話題もあれば、軽妙な感想もある。
課題図書に沿った厳粛な話し合いもあれば
自己の告白からのカジュアルな暴走もあり
思い思い十人十色・百席百想。



生まれたそれぞれのトピックは
そのテーブルにいたその人たちからしか生まれない
そういう希有なナマモノ。

幾つか聞こえて来たものをご紹介すると
「文体の入りやすさ。
何十年も前の作品とは思えないくらい共感した」
という発言があれば
「”踏まれたい”が分からない、自分にはない感覚」
という感想も出て来て。

『悪魔』に出てくる一場面からは
「作中の”ハンカチを嘗める”描写が汚く感じない。
それは、巧みな表現でズルイとさえ思わせる」

白熱する話題と参加者の衣装と相まって

非日常感と熱気が渦巻き出す空間に。



また谷崎の愛情が向かうモチーフとして
「足への執着はどこから来たのだろう」
という問いかけに対して
「幼少期の性の目覚めの猛烈さに似ている」
「幻想の維持、中学生的な熱量の維持」
など、ご自身の経験からの推論が返されたり。

グッと分け入って『刺青』の彫り師に見るS性から
「SとM、どちらがハンドルを握っているのか」
「実は痛みを与えるSではなく
受けるMこそが支配者なのではないか」
「酷いことをされてるわたしが好きというMの底知れない心理」
「わたしにこんなことしていいのはあなただけ」
という包括的圧倒的M心理のお話が飛び出す席も。



そして、誰しもが思う”愛すること”に焦点を当てた
「愛の反対語は無関心と言われる、その典型のようなエピソード」
という問題提起がされると『青い花』の中から
「主人公にとって、もう少し踏み込んでしまうと
最後はヒロインも不要になるのではと感じた」
「つまりは”本当にその人を愛しているのか”の問題」
「全く不要なのではなく、イデアを体現するため
”依り代”として必要なのでは」
と作者の内面を探るような考察も繰り広げられたり。

「自分はあまり、フェティッシュな部分への強い愛着がない。
強いて言えば二の腕かな」
「幼少期の自慰経験の芽生え」
など身近な愛玩の対象や性体験の話題に発展し、更に進んで
「セックスで”代替不可能なもの”がフェチなのではないか。
だとするならば自分は結局、そこまでのものはない。
セックスが全ての上位互換であり置換できてしまう。
それは、好い事なのか悪い事なのか考えてしまう」
と谷崎を読んだ事からの深堀りが発生する参加者の方も。



他にも芥川龍之介の作品『鼻』と対比して
「芥川は醜を憎悪し、谷崎は美を礼賛する」
「美しい、じゃだめなひとがいると知った」
「谷崎が肢なら、村上春樹の『羊を巡る冒険』では
完璧な耳のモデルが登場する」
「二次元における美を現すならば
眼は大きく、口は小さく、鼻はいらない」
と美や、その要素を探るテーブルもあり。

この辺りまで来ると会場全体次第に熱を帯びて来て
不明瞭だった考えが骨を生じ、肉が付き、血が通い
ついには身体を得たような気持ちになります。



いよいよ議論の声も高々と意見の往来盛んになって来たトコロで…

後編へと続きます。

テキスト:Feti.Tokyo hachi
フォト:Feti.Tokyo
フォト(若林美保):寺田幸弘

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