扉を開けると本の向こう側の世界が広がっていた。

猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。

名古屋文学サロン月曜会[文学]

  • 2018年8月19日 
  • 名古屋月曜会浴衣読書会 @白鳥庭園 谷崎潤一郎『細雪』

恒例の浴衣読書会、今年は谷崎潤一郎の『細雪』でした。

  作者晩年の代表作であるこの小説は、大阪の旧家・蒔岡の美しい四姉妹をとりまく悲喜こもごもの日常を描いた群像劇となっており、三女雪子の縁談を軸に展開していきます。

 会場は名古屋市熱田区にある白鳥庭園内の茶室、清羽亭をお借りいたしました。

 園内には四季折々の花が咲き、秋には紅葉、冬には雪吊りといった日本ならではの美しい景色を楽しむことができます。作中に、春はできるだけ姉妹そろって京都の嵐山で花見をするというシーンがありますが、白鳥庭園はこのような《循環する時間》が体感できる場でもあるため、日本的な美しさをもつ『細雪』にふさわしい会場と言えるのではないでしょうか。

 当日は晴天に恵まれ、それでいて風もあり、過ごしやすい気候となりました。母屋と離れをつなぐ渡り廊下は池をまたいで、長屋らしい広い窓のどこからも睡蓮の生いしげる様を見渡すことができます。

 夏の庭園を楽しむにも素晴らしい一日に、百名近い方々が浴衣姿で集うだけでもちょっとした見物なのに、その全員が分厚い細雪を読破した猛者たちだというのだから、その日の最高気温中の五度くらいはこの会場から放たれた熱気によるものだろうと思えてなりません。

 しかも、今回は谷崎研究家の西野厚志先生をお招きし、午前と午後の二度に渡って特別講義を開いていただきました。西野先生は『谷崎潤一郎全集』にて「細雪」の解題を担当なさっているほどの専門家です。西野先生と約百名の猛者が合わさればもはや向かうところ敵なし、この一日ばかりは宇宙全体を見渡してもこれほど「細雪」濃度の高い場はほかに存在しなかったはず。

 午前の部は「谷崎源氏殺人事件」とセンセーショナルに題された講義に始まりました。谷崎の訳した源氏物語(通称「谷崎源氏」)の成り立ちについてをミステリーさながらに追うという内容で、事前知識なしでも十分わかりやすく楽しむことができました。

 猫町倶楽部では源氏物語の読書会も行っているので、どちらも参加している方にとっては双方の読みを深めるよい機会となったことでしょう。もちろん源氏物語が未読であっても、のちの「細雪」に続く谷崎の思想を学ぶ有意義な時間でした。

 昼食を経て、午後の部はいよいよ読書会。「四姉妹の誰が一番好きか」「誰に一番感情移入できるか」などの話題が飛び交い、いっそう会場の熱は増していきます。

 以下は感想の一部です。

・貞之助は現在の男性に比べてもとても優しい旦那様。妻を理解して慰めてくれる。女ばかりの家庭で居心地の悪い思いをしているかも?

・お嬢様気質の雪子と妙子。二人の結婚生活は上手くいくのだろうか?(いずれ破綻する可能は充分ありそう)

・雪子は電話を苦手とする気持ちもわかるが、電話くらい頑張って自分で出てほしかった。

・雪子はなんだかんだで周りに助けてもらいながら生きていけそうな感じがする。

・妙子は憧れるような生き方をしている。

・妙子は一番現代的なのに、責められすぎてイライラした。時代背景が違い過ぎたのかもしれない。

・身分階級差別が激しい。そして、女性はほとんど働かない時代だった。

・洪水のシーンの描写が詳しい。今年実際に洪水があったから、余計に身近に感じた。

・鉄道や大きな橋ができるなどの発展で高揚感のある時代だったため、そういう視点をもって見ると別の見方ができると思う。

・当時の風俗がみずみずしく伝わってくる。

・水のときに活躍したお春どんが、その後に痛烈にディスられてて悲しかった。

・蒔岡家は「血筋」にとらわれているように感じた。

・「結婚すれば治る」病気等、結婚があらゆる問題の解決法のような考え方に驚いた。当時の女性は結婚にがんじがらめになっていたのかもしれない。

 「四姉妹の誰がとくに気になったか」という問いはテーブルでもきれいに分かれるところで、このような考え方の違いを共有することこそが読書会の醍醐味だなと感じました。特に妙子の扱いは作中と現代で大きく異なるところで、当時の女性が「がんじがらめ」にされていた時代というものについて考えさせられます。

 また、洪水や台風といった自然災害が精緻に描かれていることも特徴的です。地震や台風による被害が多発する今日こそ、『細雪』は読まれるべき小説なのかもしれません。

 さて、午後の講義はいよいよ『細雪』の世界について。

 『細雪』には巡りゆく四季のような《循環する時間》と、戦争やなど時局的な《直線的な時間》が共存し、それによって「永遠の美」と「失われゆく美」の対比が描かれている、という内容でした。

 昭和以降、日本的な美に傾倒していったといわれる谷崎文学ですが、『細雪』を読むと、確かに日本的な美というものは今もなお滅びることなく生き続けているのだと知れます。それは白鳥庭園の景観の美しさもさることながら、この日集った皆さんの美しさによるものも大きく、まさに「永遠の美」と「失われてゆく美」を体現したような空間でしたね。

 美しさといえばベストドレッサー賞。受賞者は……全員! としたいところでしたが、心を鬼にして選んでいただきました。

 作中に登場する桜や蛍はもちろん、アンティークの浴衣に手作りの浴衣など、パリコレもびっくりのバリエーション。しかもそれぞれに物語があって、小説の読書会らしいこだわりが素敵でした。

 誰が池に落ちるか冷や冷やしながらウォーリーを探せ状態の集合写真を終え、舞台を移して懇親会へ。一冊の本を通じて出会った人たちがテーブルを超えて会話に花を咲かせるなんて、いかにも大人の娯楽らしくていいですよね。

 読みを深め、仲を深め、知識を深める読書会。最後に谷崎の格言を紹介します。

「人は健康になろうと思ったら、西洋流に強く明るく、積極的に生きることだ。食物であろうが、色欲であろうが、欲するままに精一杯貪ることだ。」

 知らない人ばかりの場所は緊張しますよね。でも思い切って「積極的に」「欲するままに」、飛び込んでみてください。面白い出会いや発見があるはず。

 一冊の本は未知の世界へ続く扉です。その扉を閉じたとき、月曜会への扉は開くのです。(かっこよくおわった!)

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文責:染

写真:まりそる、なな、Yu、テラダユキヒロ
名古屋月曜会11期サポーター

 

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